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コンタクトと眼障害の記事一覧
コンタクトレンズ着用による、眼障害のリスクを知る(1)。
コンタクトレンズは、これまで説明のとおり、角膜の上に直接のっていますが、その間にあっては涙が、いわば潤滑剤の働きをしています。
角膜は血管を持っておらず、角膜の細胞はその代謝に必要な酸素を、涙を通じて取り込んでいます。
最近は連続装用・終日装用タイプなど、酸素透過性に優れたコンタクトレンズが主流になってきていますが、たとえ酸素を通すレンズであっても、装用により角膜が大気から遮断され、酸素の供給が制限を受けることは否めません。
コンタクトレンズの装用により、角膜への酸素供給が少なくなることに起因する角膜障害、そして様々な眼障害を発症するリスクが存在します。
角膜は、5つの層から成っていますが、大まかには空気に接することができる「上皮」と、その内側にある「内皮」の部分から、できています。
角膜の一番内側には、角膜の透明性の維持、すなわち光を通すために重要な「角膜内皮細胞」と呼ばれる細胞があります。
これは健康な人でも加齢によって減少していく細胞ですが、コンタクトレンズの長期装用により、角膜への酸素供給が足りなくなるため、角膜内皮細胞の死滅する度合いが早まります。
いったん死滅した角膜内皮細胞は再生しないため、その細胞減少数があまりに多くなった場合、様々な角膜障害を起こす恐れがでてくるわけです。
この角膜内皮に関わる障害は、痛みなどの自覚症状がないままに進行する点にも注意が必要です。
コンタクトレンズの装用年数が長期化するほど、角膜内皮障害の発生リスクが高まるといえます。
平成10年に社団法人 日本眼科医会が実施したアンケート調査の結果報告によりますと、医師によって診断された眼障害の症状では、充血が46.5%、角膜表面の傷が37.6%、治っても視力障害が残るような重症の障害となる角膜浸潤、角膜潰瘍などが、全体の10-20%にみられたそうです。
また、同報告によれば、使い捨てタイプを含めたソフトコンタクトレンズは、重症の眼障害を起こす割合がハードコンタクトレンズに比べ、2倍近くもあったとのことです。
ソフトコンタクトレンズは装用感もよいことから、痛みなどの自覚症状に気づくのが遅れがちなことも、その理由の一端となっているようです。
さらに、使用時間別では、眼障害が起こる割合は1週間の連続使用者や1日16時間以上の長時間使用者においてとりわけ高く、またコンタクトレンズ装用により眼障害を起こした患者の60%以上が、その作成後に全く定期検査を受けていなかったとの調査結果もでています。
このような眼障害のリスクを減らしていくため、また眼障害そのものを予防するためにも、レンズ別に異なる使用・手入れ方法と装用時間を正しく守り、眼科専門医による定期検査を必ず受けるようにすることが肝要です。
コンタクトレンズ着用による、眼障害のリスクを知る(2)。では、主な角膜障害・眼障害についてみていきます。
コンタクトレンズ着用による、眼障害のリスクを知る(2)。
コンタクトレンズ着用による、眼障害のリスクを知る(1)。でご説明したとおり、角膜は、空気に接することができる「上皮」と、その内側にある「内皮」から成っています。
「上皮」部分は神経があり、傷ついたときの再生能力を有しています。
一方で、「内皮」部分は神経がなく、またこの「内皮」部分の細胞(角膜内皮細胞)は死滅すると、再生することがありません。
以下、コンタクトレンズの装着により発生が懸念される角膜障害につき、「上皮」部分に関わる「角膜上皮障害」、「内皮」部分に関わる「角膜内皮障害」に分けて、説明します。
・角膜上皮障害
角膜上皮障害の症状に、「点状表層角膜症」があります。
これは、角膜の上皮の表層の細胞が点状に欠けた状態となることから、このように呼ばれている、軽症の眼障害です。
皮膚でたとえるなら、軽いかすり傷のようなもので、多くの場合、角膜上皮は再生能力があり、常に入れ替わっていますから、感染を起こさない限りは、比較的早く治り、視力に影響を及ぼすこともありません。
通常は、人工涙液の点眼等による治療を行います。
しかし、だからといって放置したままコンタクトレンズの使用を続けた場合は、傷の部分から細菌等が入りやすくなり、感染症の危険も出てきます。
また、長期間このような状態が続くと、酸素不足を補おうとして、角膜の周囲から中央に向けて血管が侵入してくる「角膜血管新生」を起こす場合もあるので、注意が必要です。
点状表層角膜症は、レンズを一晩はずすだけで治る場合もありますが、時には角膜上皮びらん、角膜潰瘍等へと進行し、重症となってしまう可能性もあります。
ハードコンタクトレンズの装用時には、エッジ部分が目にくい込んだ状態となって、角膜上皮障害を起こす場合があります。
「角膜上皮びらん」とは、角膜の傷が上皮の一番下まで達している場合、さらに深い角膜の奥にまで達した場合は、「角膜潰瘍」と呼ばれます。
角膜潰瘍は、細菌によるものが多く、不適切な取り扱い等によるレンズの汚染が考えられます。
ソフトコンタクトレンズ使用者の発症頻度が、特に高いと言われます。
これらの症状を呈した場合は、視力低下等の恐れもでてきますので、定期的な検診によるチェックが必要となります。
また、コンタクトレンズの使用によって目の違和感を少しでも感じた場合には早期に専門眼科医の診察を、受けるようにしましょう。
・角膜内皮障害
角膜内皮障害は、とりわけ近視の強い、ソフトコンタクトレンズを長期年数にわたり装用する者に、よく見られる症状です。
もっとも、ハードコンタクトレンズにおいても、角膜内皮障害となるリスクが少ないというわけではなく、いずれにしてもコンタクトレンズの装用時間・装用年数が長い方はとりわけ注意する必要のある、角膜傷害です。
角膜内皮障害は、上述のとおり神経細胞のない内皮で起こることから、目の痛みや視力障害などの自覚症状を伴わずに進行していく点が、やっかいです。
日頃の予防策としては、角膜への酸素供給を促進するべく、コンタクトレンズの装着時間を厳守し、またメガネの併用によって、さらに一層短時間の装用を心がけることが大事です。
角膜内皮障害がある限界ラインを越えると、角膜実質が水ぶくれのような状態になる「角膜浮腫」となり、角膜の透明性を維持できなくなることから、急激に視力が低下します。
角膜浮腫がある場合には、最悪の場合には視力低下、失明の恐れもあることから、角膜移植の手術を受ける必要が生じます。
コンタクトレンズ着用による、眼障害のリスクを知る(1)。でもご説明のとおり、角膜内皮の減少は加齢とともに進むのですが、コンタクトレンズの長期装用によって、その減少が過度になっていた場合には、安全性の見地から、白内障の手術が受けられなくなる場合があります。
歳をとって、いざ白内障の手術をする段階で、医師からそのことを告げられて愕然とするケースも、現実にままあるようです。
このように、角膜障害は最悪の場合失明の原因ともなる恐ろしいものですので、コンタクトレンズ装用者は、目に特段の異常を感じなくても、定期的に専門眼科医の健診をきちんと受けるようにしましょう。
コンタクトレンズ着用による、眼障害のリスクを知る(3)。に続きます。
コンタクトレンズ着用による、眼障害のリスクを知る(3)。
コンタクトレンズ着用による、眼障害のリスクを知る(2)。では、「角膜上皮障害」と「角膜内皮障害」を中心に説明しましたが、ここではコンタクトレンズ着用に関わるその他の眼障害について、お話します。
・結膜炎
結膜は、まぶたを軽くめくったとき、まぶたと眼球との間に見られる、少し赤みがかった膜のことです。
コンタクトレンズの汚れやレンズケース内の細菌汚染、及びレンズケア用品に含まれる薬剤・防腐剤によるアレルギー反応が原因となり、結膜が炎症を起こして充血・目やになどがでる「ウィルス性・アレルギー性結膜炎」や、上まぶたの内側に大きなでこぼこができてかゆくなり、目がゴロゴロする「巨大乳頭結膜炎」などの眼障害があります。
目やにが増えることで、コンタクトレンズ自体も汚れたりくもりやすくなったりします。
専門眼科医の診察にもとづいて、目薬の点眼等による治療を行う必要があります。
なお結膜炎は、コンタクトレンズの使用以外を原因として発症するものもありますので、自分で判断せず、必ず専門眼科医の指示を仰ぐようにしてください。
コンタクトレンズ及びケア製品に関わる結膜炎を日頃から予防するために、レンズケースの洗浄と乾燥、定期交換を行うようにしましょう。
また、コンタクトレンズのすすぎ・保存は水道水や指定外の洗浄液を用いたりせず、必ず指定された専用液を使用しましょう。
・アカントアメーバ角膜炎
水道水には、角膜感染症を引き起こすアカントアメーバという微生物が存在することが知られています。
指定された専用洗浄液を使わず、水道水などでコンタクトレンズの洗浄を続けることでこのアメーバの一種が感染して起こる「アカントアメーバ角膜炎」は、角膜の感染症のなかでは、最も重症です。
眼が強く痛み、白眼が充血、涙もかなり出ます。
また、放置しておくと視力が徐々に低下し、進行すると重度の視力障害になります。
米国疾病対策・予防センターによれば、米国におけるアカントアメーバ角膜炎の発症率は、100万人に対して1~2例とのことであり、頻発する症例ではないものの、重大な結果を引き起こす危険性をもった眼障害と言えます。
上述のとおり、レンズケアには必ず、指定された専用液を使用するようにしましょう。
コンタクトレンズ装用と、ドライアイ。
ドライアイは、涙の量が減ったり、その成分が変わってしまうことにより目の表面が乾き、ひいては角膜や結膜に、さまざまな障害をもたらすものです。
症状が軽い人から、涙に質的異常が起きている人、「シェーグレン症候群」とよばれる非常に重度の症状の人も含めて、最近はすべて、総称的に「ドライアイ」と呼ばれています。
左右の目で症状差はもちろんあるものの、通常は両眼性の疾患です。
最近の日本で爆発的に患者が増加している疾患であり、潜在患者は800万人はいるといわれています。
また、オフィスワーカーの3割以上が、ドライアイの症状にあるとも言われています。
コンタクトレンズ・エアコン・パソコン作業が、ドライアイを助長する3大要因としてあげられています。
具体的な症状としては、疲れ目・目の充血・目のゴロゴロ感・目の乾きなどがあげられます。
症状が深刻化した場合には、コンタクトレンズの着用ができなくなるのはもとより、角膜や結膜の混濁による著しい視力低下や眼の痛みなどの、眼疾患を引き起こす可能性があります。
コンタクトレンズの着用により、涙がレンズに吸収されたり、涙が蒸発しやすくなるなどして、ドライアイ状態になりやすくなります。
ソフトコンタクトレンズの装用者の約8割、ハードコンタクトレンズの装用者の約7割が、目の乾きを訴えていると言われています。
また、涙の分泌量が少なくなるため、眼に傷がついたときの回復力や、細菌等の感染防止力も弱くなります。
治療としては、初期段階では眼に水分を補給したり、炎症を抑えたりするため、専門眼科医による適切な点眼薬の処方を受けることとなります。
当然ながら、ドライアイの症状を強く感じる時には、コンタクトレンズの着用を控えるべきでしょう。
なお、目が乾くからといって市販の点眼薬を使いすぎると、含まれている防腐剤によって角膜の表面がさらに傷んでしまう恐れもあります。
コンタクトレンズの着用により、目の乾きなどドライアイ特有の症状をひんぱんに強く感じるときには、念のため、専門眼科医の診察を一度受けてみるのがよいでしょう。
コンタクトレンズと、オルソケラトロジーの関係。
現在、近視がまだ軽めの段階で、視力矯正手術まではしたくない。
ただ、できればコンタクトレンズや眼鏡の着用も避けたい…という方は、保険適応外とはなりますが最近脚光を浴びている「オルソケラトロジー」を、選択肢に加えてみるのもよいでしょう。
オルソケラトロジーは、夜中に専用の高酸素透過性ハードコンタクトレンズを装用することによって、角膜を正常な形に矯正し、屈折異常を正常化することで裸眼視力を回復させる方法です。
ただし、オルソケラトロジーで有効な近視矯正効果が得られるのは、軽度から中等度までの近視といわれており、強い近視の場合には不適当とされています。
加えて、眼疾患・強い乱視・強いアレルギー等のある方でこの治療が向いていない場合もありますので、治療可能かどうかについては、事前に専門眼科医へ相談されるのがよろしいでしょう。
日中において裸眼ですごせることが、この治療のメリットです。
一方、デメリットとして、視力回復手術とは異なり、レンズの装用を中止すると、およそ2ヶ月もすれば元に戻ってしまうことがあげられます。
逆にいえば、視力回復効果を保持するためには、専用レンズの装用を続ける必要があるわけです。
視力回復の度合いは人によって異なりますが、一般的には、0.1の視力なら、最大1.0程度までの視力回復が、期待できるようです。
視力矯正効果を有効に得るためには、装用時間とスケジュールを守ること、定期検診を受けること等において、専門眼科医の指示を守る必要があります。
なお費用的には、オルソケラトロジーにおいては保険は適応されず、全額自己負担となります。
片眼につき10~15万円程度が相場とされているようです。
オルソケラトロジーに使用するレンズは、特殊な形状の、酸素透過性に優れたハードコンタクトレンズで、角膜に対するストレスは非常に少ないとされています。
しかしながら、コンタクトレンズである以上、コンタクトレンズ着用による眼障害のリスクが、同様に存在することには注意しましょう。
(コンタクトレンズ着用による、眼障害のリスクを知る(1)-(3)も、あわせてご参照ください)
オルソケラトロジーの治療に使用するレンズは、現段階では、厚生労働省の医療用具としての承認を受けていません。
したがって、通常のコンタクトレンズのように、販売店で購入することは出来ません。
厚生労働省の承認を得ていないという意味で、まだ安全性が確立されたとまでは言えない状況となっています。
近視の進行を抑制する効果についても、現段階で医学的根拠が確定した段階にまでは至っていません。
日本では、眼科医や医療機関の裁量権により、海外からオルソケラトロジー用のレンズを輸入し、処方が行われている状況です。
非眼科医による誤ったオルソケラトロジーの処方などの問題も、これまでメディアで報じられたこともあります。
治療する場合は専門眼科医の選択も慎重に行ったうえで、ご自身にとってオルソケラトロジー治療が問題がないかどうかを、相談のうえ事前に確認されるのがよろしいでしょう。